突然ですが、あなたは今まで「そこまで欲しくもないのになぜか買ってしまった」ことはないでしょうか?
一度くらいはあると思います。私もあります。
それは人間の心理を巧みに利用した技であることが多いです。
ここではロバート・B・チャルディーニ著の「影響力の武器」を参考に、人間心理を利用した技(=武器)をご紹介します。
とある宝石店の話
アリゾナで宝石店を経営していた女性がいました。
そこで取り扱っていたターコイズが問題の商品でした。
そのターコイズは値段の割には質の良いものにも関わらず、全く売れなかったそうです。
目立つところに配置しても、客に積極的に勧めても結果は売れずじまいでした。
ある日、しびれを切らした彼女はその日の売り場の主任に、
「この陳列ケースの品は、全て価格を1/2にするように」
という殴り書きのメモを残し、出張に出かけていったのです。
とにかく、損をしてもターコイズを売り払ってしまいたい一心でした。
彼女が出張から帰ってきたとき、ターコイズの陳列ケースは空になっていました。
彼女は特に驚きませんでしたが、その後とある事実を知って驚愕しました。
その日メモを受け取った主任は、殴り書きされたメモの「1/2」をあろうことか「2」と読み間違えていたのです。
つまりターコイズは2倍の値段で売られ、そして売り切れたのです。
なぜこのようなことになったのか?
それは巧妙に意図せず購入者の購買欲を刺激する技が使われたからですが、その前に関連のある話をもう一例をあげましょう。
とても献身的な七面鳥の母鳥の秘密
七面鳥の母鳥はヒナに対してとても優しく、用心深く守ろうとします。
ヒナを翼の下にいれて守り、寒ければ暖め、汚れていれば綺麗にしてあげる、非常に子ども思いの良き母といえるでしょう。
しかし、これには秘密があったのです。
母鳥のこうした世話には、とある共通する点があるというのです。
それは、ヒナたちが発する「ピーピー」という鳴き声によって行われるということです。
逆に、鳴き声以外の部分、匂いや外見といった特徴はあまり関係ないようなのです。
「ピーピー」と鳴くヒナは世話し、鳴かないヒナはほったらかしてしまうのです。
これに関して、1974年に行われた実験によってさらなる結論が出たのです。
簡単に騙されてしまう母鳥
その実験とは、七面鳥の天敵であるイタチのはく製を使用したものです。
通常、イタチが近づくと母鳥は激怒して激しく威嚇したり攻撃します。
これははく製であっても変わりはありません。
問題は、はく製にとある細工をした時でした。
その細工とは、はく製の中へヒナ鳥の鳴き声を録音したテープを埋め込むことです。
結果はすぐに出ました。
鳴き声を流しながらはく製を近づけると、なんと母鳥はそれを翼の下に抱きいれてしまったのです。
母鳥は「ピーピー」という鳴き声にまんまと騙されてしまったのです。
その後、テープを止めるとはく製に対する攻撃が始まりました。
カチッ・サー効果
自分から天敵の接近を許してしまうという一見するとあり得ないことでも、このような習性の隙をつくだけでいとも簡単に起こせてしまいました。
まるでそれは、「ピーピー」という鳴き声によって制御されるロボットのようです。
規則的で機械的、それ故に盲目的なこのような行動は、他の多くの種でも確認されており「固定的動作パターン」と呼ばれています。
その中には求愛や交尾の儀式といったものも含まれています。
これらの基本的な特徴は、個々の行動が常に同じ形式、同じ順序で起こる点です。
例えば、それぞれの動物の中に、いくつかの行動パターンを収録したテープが入っているとします。
求愛が必要なら求愛のテープを、子ども世話が必要なら養育行動のテープがあるわけです。
それを「カチッ」とボタンを押せば「サー」とテープが回り出し、それに応じた行動をする。
その機械的な様子から、「カチッ・サー効果」とも呼ばれるのです。
おわりに
鳴き声だけで騙された母鳥がもし気付いたら「私の子じゃないやんけ!」みたいな感じでしょうね。
少しおもしろいですね。
ただ、よく知った友人かと思って招き入れたら強盗だったと考えると、かなり恐ろしい話です……。
ところで、カセットテープって今時の子は知らないですよね。
もうおじさんの私ですら、2年前にリサイクルショップでアルバイトしていた時に初めて再生したくらいです。
ラジカセなどのカセットプレーヤー部分は壊れやすいので、しっかり再生できるものはなかなかありません。
もし再生できる古いカセットプレーヤーをお持ちなら、売ってみてはいかがでしょうか。
次回は、「カチッ・サー効果」についてさらに解説していきます。