ヒナ思いの七面鳥の母親が、「ピーピー」という鳴き声のみで養育する相手を判断しているように、特定の条件を満たすと機械的に行動してしまうことを「固定的動作パターン」といいました。
また、カセットテープに例えて「カチッ・サー効果」とも呼びました。
今回はこの「カチッ・サー効果」についてさらに解説します。
敵に抵抗するのは敵だからではない?
こういったカチッ・サーが発生するのは、例えば自分のなわばりを守るためだったりします。
同じ種の違う個体が侵入したことが引き金になって、警戒や威嚇、必要なら攻撃を、つまりは防御のテープを再生するわけです。
しかしそこには弱点があり、その防衛行動を引き起こすのは敵の全身の姿形ではなく、ある特定の特徴だということです。
これを信号刺激といいます。
大抵この信号刺激は、敵の持つたった一つの要素しかありません。
例えば、
ヨーロッパコマドリのオスは、別のオスがなわばりに侵入すると、橙色の羽毛が生えた胸の部分だけを激しく攻撃することが実験で明らかになっています。
また、橙色の羽毛がない本物そっくりのヨーロッパコマドリのはく製では、近づけてもほとんど無視するという結果があります。
他人事にはできないカチッ・サー
信号刺激を用いれば、下等動物を騙すことは確かに容易です。
しかし、自然界においてはこれでもほとんど問題ないのです。
例えば、
七面鳥の母鳥においては、「ピーピー」という鳴き声を出すのは七面鳥のヒナ鳥だけなので、その声だけに反応するのは特に間違いではありません。
これがおかしくなってしまうのは、科学者のようなペテン師が介入してきたときだけなのです。
次が重要で、このカチッ・サーは人間にも備わっているという点です。
多くの場合、私たちの役に立っているものですが、これにより騙されてしまうこともしばしあるのです。
「急いでいるので」と頼まれたら?
心理学者であるエレン・ランガーはとある実験をしました。
よく知られた人間行動の原理の一つに、「理由を添えると頼み事が成功しやすくなる」というのがあります。
ランガーの実験ではまず、コピー機の前にいる人に、
「5枚だけなのですが、先にコピーをとらせてくれませんか?急いでいるので」
とお願いしました。
すると実に94%もの人が譲ってくれたそうなのです。
次に、同じ様にして、
「5枚だけなのですが、先にコピーをとらせてくれませんか?」
と先程とほとんど変わらないお願いをしましたが、譲ってくれたのは60%の人に過ぎませんでした。
前と違うのは「急いでいるので」がないだけです。
とすると、この「急いでいるので」がキーワードのように見えますが、次の実験でそうではないことがわかりました。
「5枚だけなのですが、先にコピーをとらせてくれませんか?コピーをとらなければならないので」
はい、先にコピーをとる理由になっていないのがわかると思います。
しかしこれで93%と、最初と同じくらいの人が譲ってくれたのです。
コピーをとらなければいけないからコピーをとるのは当然の話で、おまけに急ぎの用でもなんでもないのに、これだけの人が先にコピーをとらせてくれたのです。
重要なのは理由そのものではなく、最後の「ので」の2文字なのです。
この「ので」を聞いたことで、それらしい理由でもないのにお願いを聞いてしまった、すなわち「カチッ・サー」です。
人間にも少なからず「カチッ・サー」が備わっているということがわかると思います。
おわりに
実際、私がこのコピーの場面に出くわしたとしたら、相手が急ぎかというよりも、自分が急いでなければ譲ってしまうと思います。
というのも、後ろが控えていると気が散るからで親切心ではありません。
こんな感じで、親切に見えて利己的な行動はよくします。
隙あらば自分語りでした。
次は、最初に出てきた宝石店の謎についに迫ります。