私たちは、一部の情報のみでつい判断しがちになってしまうものの、自分にとって重要なことに関してはしっかりと考えて行動しようとします。
しかしそれも完璧とはいえず、切迫した状況下などにおいてはどうしても充分な分析が困難で、結局、思考の近道に頼ってしまうことも多くあります。
これは自分や他人の命が関わっていても同様です。
見逃されがちな機長のミス『機長症候群』
「機長症候群」とは、人の死に直結する現象です。
アメリカ連邦航空局によると、多くの航空機事故は、機長が犯した明白なミスを他の乗員が正さなかったために発生していると報告されています。
機長の致命的なミスを、他の乗員が「専門家がそう言うなら、正しいに違いない」というルールによって見過ごしてしまった結果なのです。
これによって発生した事故の一例をあげましょう。
IBMの元会長ジョン・ワトソン・ジュニアが第二次世界大戦中に体験したことです。
彼は大戦中、将校が死傷した航空機事故の原因を調査する任務に当たっていました。
その事故の中に、ウザル・エントという著名な空軍大将が関わるものがありました。
とあるフライトの直前、エントの副操縦士が体調を崩して任務から外れることになったのです。
代わりに副操縦士の任に当たった隊員は、空軍大将と共に飛べることを名誉に思っていました。
そして離陸の時がやってきました。
エントは歌を口ずさみながら、時折、それに合わせて首を上下に軽く動かしていました。
それを見た副操縦士はなんと、車輪を引っ込めろという合図と勘違いしてしまったのです。
離陸速度には全く達していませんでしたが、副操縦士は車輪を引っ込め、機体は滑走路に叩きつけられてしまいました。
なおこの事故により、エントは脊椎損傷で下半身不随になってしまいました。
ワトソンは、この副操縦士から話を聞きました。
「なぜ離陸に必要な速度に達していないと知りながら、車輪を上げたりしたんです?」
彼は答えました。
「私は、大将がそうするように自分に促したと思ったんです。」
愚かなことをした、と責めるのは簡単ですが、それだけ思考の近道というのは強力で、時に自身や他者の命をも脅かす諸刃の剣に成り得るということなのです。
現代で生きる私たちの天敵
日常的に多くの自動的な行動パターンがあふれている現在、こうした行動について知らない人が多いのも事実です。
そうなると、自動的行動パターンについて絶対に押さえるべきポイントがあります。
それは、この機能を熟知する者に対して、私たちは恐ろしいほど無防備になってしまうことです。
例えるなら、七面鳥の母鳥に行った実験のようなものです。
これは動物行動学者によるものですが、自然界でも似たようなことをする生物が存在します。
ある種の生物は擬態と呼ばれる方法を使い、別の生物に偽の信号刺激を与え、その生物にその場に相応しくないテープを回させるように仕向けます。
擬態を用いる生物は、相手に不適切な行動を誘発し、自分の利益にするのです。
おわりに
機長症候群は命に関わるレベルの話なので、普段は経験することはないと思います。
日常的な話に落とし込むなら、上司のミスを指摘できない行為と同じです。
上司の気分を害したくない、という理由なら違いますが、「何か考えがあるに違いない」という忖度をしてしまうなら同じといえるでしょう。
それで後から怒られるわけです。
なんで気づいてたのに言わなかったんだ?
いや、言ったほうがいいかわからなかったので
言えよ
次回は、擬態を駆使して生きる生物の例からです。