自動的な行動パターンをうまく利用して、自分の利益を得るものの例を紹介しました。
彼らは自分の力をほとんど使わずに、この武器を使うことができます。
そのため、大きな利益を得られるだけでなく、相手も自分が操られたことには気付かない傾向にあるのです。
よくある武器として例をあげましょう。
手軽に再現できる『知覚のコントラスト』
人間の知覚には、コントラストの原理というものがあります。
順番に提示されるものの差異をどのように認めるかに影響を与えます。
簡単にいえば、最初に提示されるものと次に提示されるものの差が大きいと、実際以上に差を感じてしまう傾向にあるのです。
例えば、軽い物を持ち上げた後に、重い物を持ち上げるとします。
すると、単に重い物を持つよりも重く感じてしまうということです。
コントラストの原理は、精神物理学の領域で確立されており、あらゆる種類の知覚に適用できます。
一つ実験の例をあげましょう。
まず冷水、常温の水、お湯が入った3つのバケツを目の前に用意します。
そして片手を冷水に、もう片手をお湯につけます。
最後に、両手を同時に常温の水につけるのです。
すると、冷水につけていた方の手は水がお湯のように感じ、お湯につけていた方の手は水が冷水のように感じるというのです。
コントラストの原理を学生に紹介する際によく行う実験で、やはり効果はてき面のようです。
私たちは、全く同じものでも直前の出来事によって違った印象を受けてしまうのです。
セールスマン御用達の原理
この原理の怖いところは、うまく機能するばかりでなく、見破ることが困難なことでしょう。
自分のためにその場面を組み立てている形跡を見せずに、その影響力を利用できるのです。
紳士服の販売店ではこの原理をたびたび利用します。
ある男性が三つ揃いのスーツとセーターを買おうとするとします。
あなたが店員なら、スーツとセーターのどちらを先に見せるでしょうか。
この原理を利用するなら、価格の高い方を先に勧めるべきで、大抵はスーツでしょう。
先にスーツを買わせてしまえば、次のセーターがどれほど高価でも、スーツと比較するとあまり高くないように感じるというわけです。
シャツや靴、ベルトを買おうとする場合も同様です。
セールスマンが多くの利益を上げようと思うなら、高価な品を先に見せるべきです。
安い品を先に見せてしまうと、後に見せる品がこの原理によってより高価に思われてしまい、やりづらくなるでしょう。
誰もがきっと経験するコントラストの原理
知覚のコントラストを利用しているのは他にもあります。
例えば、不動産会社です。
とある会社では、新しい客と物件巡りをするとき、必ず魅力のない住宅からはじめるのです。
「当て馬物件」と呼ばれたその物件は高価に設定され、売るためではなくただ見せるだけだそうです。
ひどい家を最初に見せておくと、その後の家が本当に立派に見えるとのこと。
次に自動車のディーラーです。
紳士服販売の例と似ています。
本体の何百万円という取引の後なら、オプションなどの数千、数万円など大したことなく感じます。
重要なのは、これらの追加購入品を別々に提示していくことです。
すでに決定した巨額と比べれば、後の一つひとつの価格など取るに足らないと思わせられるのです。
そのため、最終的に価格は大きく跳ね上がってしまうことでしょう。
おわりに
コントラストの原理は、私の弱点といってもいいです。
というのも、頭ではわかっていてもつい買ってしまうからです。
直近の例だと、先日、2万円強の中古の原付を購入しました。
しかし必要なものとはいえ、自賠責やら修理品やらで結局計5万円以上かけてしまいました。
ここで重要なのは、全くもってノンストレスだったという点。
自動車ディーラーの例と本当に同じで、大金を払った後の細かい出費は気にならなくなりました。
わかっていても、そうすることが合理的に感じてしまう恐ろしい原理です。
次回は新章に入ります。