前回は、返報性のルールで返ってくるものが良い事だけではないことを紹介しました。
こうしたルールは、この人間社会に根強く息づいています。
人間社会で当たり前なルール
この社会では、返報性のルールが基本原則として働くように教育されています。
私たちはこのルールに従うように教えられ、守らない者に対する社会的制裁や嘲笑を理解しています。
他人から取るだけ取り、そのお返しをしない人には多くの人が嫌悪するので、そうならないように必死に努力するのです。
しかしそうした背景で、恩義を感じさせることにより一儲けを企む人に「だまされて」しまうことがあるのです。
このルールが武器として悪用されてしまう可能性を示した実験があります。
2本のコーラ
心理学者デニス・リーガンによってとある実験が行われました。
美術鑑賞を名目に実験に参加した大学生が、もう一人の参加者(リーガンの助手)と共に絵画の作品評価を行ったのです。
この実験では2パターンの検証が行われました。
パターン1では、鑑賞の休憩時間に助手が部屋を離れ、2本のコーラを買ってくるのです。そして、「君の分も買ってきたよ」とコーラをあげるのです。
パターン2は、助手は自分の分のコーラしか買ってきませんでした。
これ経て鑑賞終了後、助手は参加者にあるお願いをします。
「自分は今、新車が当たるくじ付きチケットを売っている。最も多くチケットを売れば50ドルの賞金が手に入るので、1枚25セントのチケットを何枚か買ってほしい。もちろん、多いに越したことはないが何枚でもいい。」
この実験の結果、買ってくれたチケットの枚数が違ったのです。
親切にされた参加者は助手に対して借りを感じていたそうで、何もされなかった参加者に比べ、倍の数ものチケットを購入していたのです。
この実験は、返報性のルールがどう働くかを示す簡単な一例ですが、もっと詳しく検討することで、いかにして利益を引き出せるかが理解できるでしょう。
返報性のルールの威力
このルールの恐ろしいところは、相手に借りさえなければまず断る要求さえ、受け入れさせてしまうことです。
実は、先程の実験では要求を受け入れるか否かだけでなく、要求してきた相手に対する好感度が、要求の受け入れ方にどのような影響があるかも調べていました。
リーガンはいくつかの評価箇所を作り、参加者に助手への好意の度合いを記入させました。
そして助手に対する好感度とチケットの購入枚数を比較した結果、好感度が高い程チケットの購入枚数が多いという傾向が見受けられたのです。
一見すると、好意を感じる人には親切をしようとする、当たり前のような結果に見えます。
しかし、この調査では他の結果も得ることができました。
それは、コーラをもらった参加者は助手への好感度に関わらずチケットを購入していたのです。
好感度が低くても、借りを返すことへの義務感によって購入したのです。
また、購入した枚数も好感度に関わらず同じくらいだったのです。
頼み事をしてくる相手への好感度が、普通なら躊躇してしまう要因を簡単にしのいでしまうところに、返報性のルールの強さが見て取れます。
おわりに
好感度に関わらず、義務感によって購入してしまったこの実験ですが、『新車が当たるくじ付きチケット』なので「当たればいいな」と購入した方もいたと思います。なんで当たり付きにしたのでしょうね。
ちなみに、コーラはコカも飲みますがペプシ派です。
次回は、この返報性のルールがどれだけ社会に蔓延しているかを紹介しようと思います。